姿勢を教えてくださいと頼まれる事があるのだが、実はそんなに簡単ではない。
以前、カメラマンの女性に頼まれたので、カメラを構えるつもりになってくださいとご案内をした。
一目見て、かなりやる方だというのは分かった。構えにブレがない。試しに、軽く押してみたらやはり安定していてビクともしない。
今度は普通に立ってくださいとご案内をして、押したらすぐにグラつく。それで、カメラを構えているつもりで立ってくださいと再度ご案内をしたところ、押してもグラつかなくなった。普段から、そうしてくださいで話は終わった。
バックボーンがある相手に教えるのは簡単なのだ。本人が既に出来ている事に気がつけば良いだけだ。
姿勢というは身体的教養なので、普段やっている事の影に過ぎない。その立ち姿や体形から、あの人はゴルフをやっているなとか、日舞をやっているなとか、見て分かる事も多い。
姿勢を良くしようとして、反り腰で腰を痛めている人をよく見かける。不味いアプローチかもしれない。喩えて言うなら、姿勢だけを求めるのは、教養を身に付ける為に薄い自己啓発本を読むみたいなもので、安直かもしれない。役にもあまり立たないのではないだろうか。
抽象的な事をそのまま理解出来れば苦労はないのだが、それだと分かった気になるだけで、検証する為の具体性や経験に乏しくなりやすい訳である。
それよりは、姿勢を良くしたいのであれば、何らかのスポーツや芸事をお薦めしたい。きっといつの間にか身につく事でしょう。
先日、とあるミュージシャンのコンサートに出掛けた。カルテットが参加していたのだが、よりにもよって、ファーストヴァイオリンだけが不味く見えた。自分は音には素人なので、構えを見てそう感じたのである。
そうしたら、バンドメンバーの紹介コーナーで、そのファーストが普段はマンドリンをメインで弾いていると知って納得したものである。マンドリンの腕の方は知らないけれど、少なくともヴァイオリンを弾く時の構えが決まっていないのは、楽器の素人の自分にも一目瞭然な訳である。いやまあ、良し悪しの話であって、好き嫌いはまた別ね。