現地の寿司屋でバイトする日本人留学生も多いけれど、異国で収入を得ようとすると、まず同国人からだったりしやすい。その点、華僑は母集団が大きいので有利だ。サンフランシスコには大きな中華街があるけれど、同地の日本人街と称するものはビル一つだったりする。
タンザニア人版の処世を教えてくれるのが本書。文化人類学の著者は、香港在住のタンザニア人グループに接触してその生活と仕事を取材する。貧しいからこその連帯があり、その描写にはちょっと古いが日本のダメ連を思い出させるものがあった。
彼ら彼女らが根城にしているのが、チョンキンマンションだ。複数のビルを無理やりに繋いだ巨大ビルで、不法就労の外国人の巣窟になっている。自分も数年前に香港を訪ねて、チョンキンマンション内の安宿に泊まった。ヒッピー御用達で、部屋は漏れなく下水臭い。そこも経営しているのはエチオピア人グループだったが、予約した部屋がないというので流石だった。
とにかくまあ、一時が万事そんな感じの観光スポットだ。三つ星ホテルも良いけれど、怖いもの見たさでチョンキンに泊まるのも乙かもしれない。一階右奥の多国籍料理屋のお兄さんは親切だ。詠春拳の見学に行きたかったので、彼に片言で伝えたら武館に連絡をつけてくれた。雰囲気の一端に触れたので、とてもおもしろい本だった。
なんだか日本の昭和30年代ブームみたいな話になってしまった。実際には、当時の方が犯罪率は高いよ、過去が美化されてるよというオチかもしれない。
いずれにせよ、あの古くて最先端の街だった香港も店仕舞いだろうか。まあ、元から無理筋な話で、香港市民は本土からは上級国民に見えるはずなのでデモをやっても広がり様がない。観光客にとっては街の姿が変わるのは寂しい話だが。