革靴の内側に脂を塗りたくったら、痛みがすっかりなくなったので、感動した。この方法には、カビや型崩れへの懸念から賛否両論あるそうなのだが、履いて慣らすどころではない状況だったのだ。
最近、やっと自分の好きな物が分かって来た。時間と共に変化して、手間の掛かる製品が好きだ。銀、革製品、時計などが好みである。銀製品を磨いていると、妙な脳内麻薬が出て落ち着く。
数年使った革の鞄が傷んできたので、帆布の鞄を買った。写真を見ると赤錆染めが鮮やかだが、現物はもう少しマットな質感をしている。
近頃、買い物の話ばかりをしているのだが、物欲が後半生のテーマである。最近まで自覚もなかったのだが、若い頃は精神世界の住人みたいなものだった。実際、服を買う金があったら、本を買っていた。
若いとそれで良いのだ。Tシャツとジーンズで保つ。それが歳を取ると、みすぼらしくなって来る。老人になったら体も希薄になるから、ハイブランドの服しか着ないくらいのつもりでいる。しかし、痩せ枯れる前提で話しているのだが、かなり怪しい。
古稀を越えたデザイナーの方が来ている。BMWで乗り付けて、黒いコートに身を包み、ヒールの音を響かせながらやって来る。玄関先で煙草を吸うのだが、灰皿に残った吸い殻には紅いルージュの跡、といった具合である。格好良いのだ。
7、80代の紳士が、去り際の玄関先で仕立ての良い帽子を胸に当てて、さようならとやるのも素敵である。実際にやられて感銘を受けた。その年齢まで生きていたら、真似をしたい。
要するに、老いについて考えている様な気もする。