名人芸

あれは震災の翌年だっただろうか。仁松庵で、スリランカで鉱山経営をしているという中年男性との会食の機会があった。現地の軍人に袖の下を渡して、遺跡でダイナマイトを使用したインディ・ジョーンズごっこを楽しんでいるという話であった。眩暈がしそうなくらい胡散な話だが、好物である。

この御仁、気功をやっているというのだが、癌の人を2、3人は治したかなあと言うので、素人さんは好きな事を言えて良いなあなんて事も思った。仕事にしていると、含羞というものがある。癌が小さくなった人もいるけれど、そんな事は気持ち良く話せない。しかし、老後に引退する事があったら、マルコ・ポーロをやるつもりだ。確か、ヨーロッパに戻ってついた彼の仇名はミリオーネと書いて百万の嘘。

癌はステージ4になってから訪ねていらっしゃる方が多い。実話だが、病院>拝み屋さん>ウチの順番である。だから、最期の数ヶ月だけを見た事が何度もある。もう洗面器に吐きながら、施術を受ける様な状態である。正直に言うと、施術は抗がん剤による体調不良の後始末で手一杯になる。

数は見たので、それなりの所見はある。肝臓が水気のない繊維状の触感になっているのが特徴だ。これは抗がん剤の影響なのだろう考えていたのだが、投与する前の人も同様なので、そういうものだと見做している。後は、足の指骨間に独特の詰まりが出ている。脊椎の転移にも特徴が出る。こういうのを知ると、時々は自分のを確認しないと気が済まなくなる。

怪しいなと感じたら、検診はしていますか?と水を向ける。勘の良い人はそれで受診するのだが、前立腺に見つかった事があった。どうして分かった?と尋ねられたけれど、それは体の特徴があるからだ。そういえば、病院のレセプトをしている人と話していたら、人相を見たら何の病気か見当がつくそうである。僕は分からない。その方の場合、毎日、膨大な人数を見て顔付きと病名を確認しているから身に付く、ある種の名人芸であろう。

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