魅力

若い頃に短期間だけ会社勤めをしていた。勤め先はニッチな工業製品を扱う中小企業。営業畑出身の社長が、業界の独占メーカーから技術者達を引き抜いて営業している会社だ。

隣の芝は青く見えると言うけれど、営業畑出身の社長の口癖は技術力。しかし、末端平社員の自分から見ても、営業力で保っている会社だった。事実、管理している工場では設計通りの製品が出来る事は稀で、クレームの多い会社だった。例えば、樹脂製品は当然の様に割れた。

設計部門のフラストレーションを察するに相当なものがあったのだろう。技術者のリーダーはしばしば仲間を連れで独立するぞと悪態をついていた。

さて、設計部の内実がどうなっていたのかというと、リーダーは性格は強いので目立つのだが、業界で有名だったのはナンバー2の男性だ。彼がキーマンなのだ。リーダーが独立するぞと言う度に、無言でパソコン作業を続けるナンバー2の様子を覚えている。リーダーは転職の時と同様に仲間がついて来るものと決めつけているのだが、もしかしたら、おめでたかったかもしれない。ニッチな業界なので、潰しの利く仕事ではないのだ。また、半ば自覚があるから、独立していなかったのかもしれない。

ところで、社内に社長の隠し子と陰口を叩かれる中年男性がいた。体型くらいしか似ていないのにどうしてだろうかと疑問だった。直接の接点が少なかったからなのだが、自分が退職の意志を伝えたら、二人きりで食事をする機会があった。その席で、ウチの社長は凄いと言う。その気になったら、ブッシュにでも会うという決め台詞が印象的だ。中小企業の社長がアメリカの大統領に会って何を話すんだ?と思ったけれど、陰口の根拠は理解した。

結局、社長は大した人物なのだ。男が男に惚れるというか、子飼いの社員をすっかり魅了してしまっている。これは人を率いるには魅力が必須という話だった。中小企業の社長は凄い。

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