リスト

若い頃から物欲が薄い。例えば、車。男同士では、誰それは何に乗ってるという話題がよく出るのだが、サッパリ分からない。車の名前も分からなければ、文脈を読み込む為の知識も興味もない。

ところが、最近、機械式時計が欲しくなった。欲望が減退気味なので、物欲でもなんでも自分に葉っぱを掛ける為にハマリに行く事にした。また、精神世界的な内容はもう十分に楽しんだのだから、別の物差しがあっても良いではないか。そんな面倒な理論武装が要るのか疑問なのだが、必要なのだ。腰が重い。

それで、今日は川崎の時計屋に2時間いた。お店的には不審者なので、店員に声を掛けて質問を重ねたのだが、結構、機械式の時計は面倒なのね。3年に一回はオーバーホールが要るし、現代では致命的な事に磁力に弱い。スマホと一緒に持つとアウトではないか。オリエントスターのデザインが気に入ったのだが、どうしようか。完全に物好きの持ち物ではないか。

夜は、川崎の「リスト」へ向かった。珍しい酒を揃えているシガーバーだ。前から気になっていたのだが、ここもハードルは高かった。案内には、エレベーターもない様なビルの3階まで上がって来て、一杯で帰る様な野暮天は来ないでくれとの事である。下っ腹に力を入れて、ドアを開けた。

マスターの接客が良くないとの評判を目にしていた。確かに、葉巻に合う酒を尋ねたら、お客さんの好み次第ですねとのつれないお返事。じゃあ、スモーキーなウィスキーを出してほしいと話を向けたら、スモーキーな酒だと潰し合うかもしれないけれど、酒と葉巻の勝負に決着がつくかもしれませんねという趣旨の事を言うので、それは夫婦だと離婚ですねと返したら、気に入ってもらえた様だ。

話してみると、仕事に誠実なのだ。客にもそれを求めている様に感じた。マスターにお任せみたいなのは嫌うらしい。酒と葉巻に対しての然るべき敬意を示したら、今度は客が何を求めているのかを探る様に、サービス過剰なくらいに酒を紹介してくれる様になった。破格に良い店だ。今日はグアテマラ産の葉巻一本、モンテクリスト一本、貴腐ワイン一杯とギリシア産のブランデーを二杯飲んで、お会計は5,300円。

センスがなんとなく分かる。例えば、たまに整体を教えてくださいというご依頼があると、どこまでやりたい?とか尋ねてしまうのだ。人によってはカチンと来るよな。ただ、ボディワーク的な内容を求めているのか、手技を覚えたいのかなど、相手が何を求めているのか分からないと応えられないので、相手の要望を知りたい。全ては対話から始まる。バーに行って、勉強になったのは初めての経験だった。

タイトルとURLをコピーしました