沈黙の臓器

2年ほど前に潰れてしまったが、施術所の近所には大きな酒屋があって、そこでよく酒を買っていた。品揃えが豊富でおもしろい店だった。近いので買い物袋は要らない。剥き身の一升瓶を片手に帰り道を歩いていたら、お客さんに見られて気まずい思いをした事もあった。そこの閉店セールは圧巻で、店内の全商品がほぼ5割引きだった。一週間ほどしたら、買い付け業者が入った為か品薄になったが、10本ほど残っていたヘネシーを買い占めた。

しかし、酒は好きだが、体質的にあまり飲めない。すぐに眠くなってしまう。下戸遺伝子というのがあって、それは遺伝的に日本人と中国南部に多いそうだ。自分もそうなのだろう。ヨーロッパなどは水が悪いので、古代ではアルコール度数の低い酒が水替わりだ。酒に弱い遺伝子は自然淘汰されたのかもしれない。

さて、一晩飲み明かすのもしょっちゅうだという人もいるけれど、大概は体を壊しているので、下戸で良いのかもしれない。しかし、飲める人は元気だ。むしろ、元気過ぎる。仕事上のアドバイスとして、酒を減らす様に伝えるのだが、あまり効果はない。

それでも、相手によっては突っ込んだ話をする。元気な人が年を取ると、心身のテンションが落ちるのを不調として感じるので、それを嫌って酒で無理やりにテンションを保っているという事実がある。車の喩えでいうと、人生にハイギアしかないのだ。テンションが低いローギアに慣れて頂く必要がある。単純に好きだからで良いじゃない?という意見もあるのだが、もっともらしい説明は必要だ。

と、ここまで話してもやはり効果はないのだが、一応の親切で話はする。まあ、自分も飲むし、人様の生活に過剰な口出しをする趣味もない。症状との相性で、酒を止めないと良くならない場合にしょうがなく言うだけの話だ。

ところで、飲酒の形跡は肝臓に表れる。肋骨に覆われているので、触れるのはその下部のみだが、触る事で飲んでいる酒の種類の見当がつく。ビールを飲むと脂っぽい柔らかい感触になるし、糖度の高いワインではやや固くなり、指を奥へ押し込むとなんとなくザラッとした感触がする。また、赤ワインだと腸が一緒に張りやすいが、白ワインではあまり腸は張らない。これは酸化防止剤の影響かもしれない。アルコール度数の高いウィスキーや焼酎を常飲していると、ボテッと固く肥大した感触がする。

肝臓は自覚症状の乏しさから沈黙の臓器と呼ばれるが、手技の従事者にとってはそうではない。

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